ホーム > プロジェクトインタビュー − 第9回プロジェクトインタビュー:UR都市機構 様

プロジェクトインタビュー

第9回プロジェクトインタビュー:
 UR都市機構 様


第9回プロジェクトインタビュー:UR都市機構 様 へのリンク画像

URの果たしてきた社会的役割と存在意義をしっかりと伝える施設を目指して

「URまちとくらしのミュージアム」は、「都市の暮らしの歴史を学び、未来を志向する」をテーマに、UR都市機構及びその前身の日本住宅公団がまちづくりを通じて探求してきた新たなくらし方を、「過去・現在・未来を体験しながら一望できる施設」として、2023年9月に東京都北区赤羽台に開館しました。館内では、歴史的価値の高い集合住宅4地区計6戸の復元住戸をはじめ、映像・模型などで都市や集合住宅の変遷を紹介しています。当社はミュージアム棟展示の計画・設計・制作にわたり本プロジェクトをお手伝いさせていただきました。本稿では、「URまちとくらしのミュージアム」のご担当者様と当社のプロジェクト関係者が、プロジェクトへの想いやこだわりを語っています。

 

北区赤羽台に開館した「URまちとくらしのミュージアム」

独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)
本社 技術監理部 担当課長

渡辺 直 様

建築設計事務所勤務、大学講師を経て、2006年2月にUR都市機構入社。これまでの主な担当業務に日本橋人形町一丁目地区市街地再開発事業、ルネッサンス計画1ひばりが丘住棟改修実証実験、風洞実験等の風環境調査研究、ルネッサンスin洋光台(現「団地の未来」プロジェクト)等。2021年4月から現職。博士(学術)。一級建築士

独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)
本社 技術監理部 企画課 主査

野口 聖太 様

2015年3月にUR都市機構に入社。千葉エリアの団地にて、民間企業と連携した住戸内改修等を担当。その後、多摩、神奈川エリアの団地大規模修繕の設計業務を経験。2019年から都市再生部門に配属となり、大手町連鎖型再開発、大手町二丁目地区第一種市街地再開発事業、虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業等の都市の再開発事業を担当。2022年より「URまちとくらしのミュージアム」の展示計画や施設運営等を担う。

株式会社トータルメディア開発研究所
プロジェクト事業本部 東日本プロジェクト推進部

安藤 淳一

1987年トータルメディア開発研究所入社。展示プロデューサーとして栗東歴史民俗博物館、長坂町郷土資料館、与野郷土資料館など歴史系資料館の制作に従事。
仙台文学館、日本現代詩歌文学館 井上靖記念室、早稲田大学會津八一記念博物館、大田区勝海舟記念館など、文学・個人記念館の実績も多い。高知県香美市のアンパンマンミュージアムでは、建築と展示を融合した施設づくりを推進。花王ミュージアムでは清浄文化史という難しいテーマの展示化を図る。その他、ふじさんミュージアム、燕市産業史料館など、地域の文化観光施設も広く手がけた。「URまちとくらしのミュージアム」では、「社会課題を、超えていく。」の理念を受け、これまでの実績の集大成として“どんな展示課題も超えていくぞ”という意気込みで施設づくりにつとめた。

日東設計事務所
東京都立大学・埼玉大学非常勤講師

志岐 祐一 様

東日本大震災の復興住宅をはじめとする集合住宅団地の計画や、日本橋高島屋(国の重要文化財)など歴史的建造物の調査、江戸東京たてもの園の建造物の保全、また花王ミュージアム、江戸東京博物館で公団住宅の再現展示を行う。前職のベル・コムーネ研究所在籍時から同潤会アパートや公団初期の集合住宅の調査を行い、資料収集や住戸の移築展示をとおして旧UR集合住宅歴史館の整備に携わる。「URまちとくらしのミュージアム」では計画初期からかかわり、トータルメディアのもとで住戸の移築復元をはじめ展示全般に携わった。

株式会社トータルメディア開発研究所
PPP事業本部 推進第1部

中島 祥子

自治体の文化事業専門職を経て2022年トータルメディア開発研究所入社。入社以来、文化施設の運営業務を担当。「福島市アクティブシニアセンター・アオウゼ」での市民共創型イベント・講座を企画実施するボランティア人材育成支援、「福島市こむこむ館」での子ども対象プログラム企画運営支援などに従事。「URまちとくらしのミュージアム」には2023年の開館準備から携わり、UR事業の社会的役割を多世代・多層の来館者に伝えるとともに、新たなくらしの風景を作り出すことを目指す「まちとくらしのトライアルプロジェクト」などの施設PR・イベント事業に取り組んでいる。

 

ミュージアム入口サイン

展示空間には移築・復元だけではない多様な仕掛けがちりばめられている。


独立行政法人都市再生機構(UR都市機構) 渡辺 直 様(以下、渡辺氏)

当施設では、同潤会代官山アパートや、UR都市機構の前身である日本住宅公団の蓮根団地、晴海高層アパートなど、昭和初期の集合住宅6戸をUR集合住宅歴史館(東京都・八王子市、2022年3月閉館)から移築・復元しています。それだけでも十分なポテンシャルがあると予想していましたが、たくさんの反響が寄せられているのを見るとまた別の一因があるのかなと。おそらくは昔の住戸の展示に加えてミュージアム内に没入できる仕掛けを多様に散りばめているのが、開館から1年近く経つ今でもマスコミも含め、多くの方から注目していただけている理由かと思います。その仕掛けは、企業ミュージアムの展示に長けたトータルメディアさんがいればこそできた。私たちが伝えたい要点を含め、上手に編集してくださいました。

整備当時のエピソードとともにプロジェクトを振り返る。

開館以来、予想以上の集客。年間目標の来館者数を3ヶ月前倒しで達成。


独立行政法人都市再生機構(UR都市機構) 野口 聖太 様(以下、野口氏)

当施設が開館した2023年9月当時は来館者がどれくらい来るのか、正直予想がつきませんでした。ですが今では、土曜の見学などは予約を開始したらすぐに埋まるほど。ここまで興味を持ってもらえるのかと驚きました。
年間1万人の一般来館者を目指していましたが、おかげさまで、すでに今週中(取材日は2024年6月5日)に3カ月前倒しで目標を達成できる見込みです。(追記:6月7日に1万人突破)

 

1万人目達成の瞬間を来館者とともにお祝い。

2019年、旧赤羽台団地が団地初の登録有形文化財に登録されたことを契機に施設の整備計画が動き出す。


(野口 氏)

2018年7月、日本建築学会より旧赤羽台団地(現ヌーヴェル赤羽台)のスターハウス3棟と板状住棟1棟の保存活用の要望書が、独立行政法人都市再生機構(以下、UR)に提出されたことが計画の発端です。2019年にそれら4棟が団地の住棟としては初となる国の登録有形文化財になりました。これを契機に、八王子のUR集合住宅歴史館にあった復元住戸を文化財である4棟のそばに移すのと同時に集合住宅や団地の歴史を紹介する場所もつくってはどうか、という話が持ち上がりました。

ミュージアムを構成する要素のひとつスターハウスと板状住棟(2019年、国の登録有形文化財に登録)

日本のまちづくりにおけるURが果たしてきた先導的な役割を伝えたい。


(渡辺 氏)

『昔の団地』に入ってレトロ感を楽しむだけにとどまらず、1955年に発足した日本住宅公団から続くURの暮らしづくりの歴史やまちづくりにおける社会的役割を、きちんとわかりやすく来館者に届けたいというのが私たちの希望でした。URは団地をはじめ集合住宅のイメージが強いため、都市再生や震災復興支援などにも尽力してきた実績についてはあまり浸透してないのが実情でした。
URは国の政策実施を担う、独立行政法人という官でも民でもない特殊な存在です。民間では手が出せない社会課題への対応こそ私たちの存在意義がありますが、これがなかなかうまく伝わらず、身振り手振りで説明するのが常でして。そこで当施設を順序通りに巡れば『なるほど、URとは本当はこんな組織なのか』とひざを打つような空間づくりを、トータルメディアさんや志岐さんの力をお借りして目指しました。

都市再生や被災地の復興など、UR事業の社会的役割をしっかり伝えたかった。

対話を積み重ね、UR都市機構の活動と理念を当社の経験と「伝える技術」で紐解いていく。


株式会社トータルメディア開発研究所 安藤(以下、安藤)

UR集合住宅歴史館にあった資料を持ってきて漠然と並べるだけでも、専門家やマニアの方にとっては十分な「お宝」だと思います。数多くの来館者に興味を持ってもらうためには、もうひと工夫が必要です。集合住宅の歴史や、まちづくりをテーマにしたミュージアムの展示制作は弊社では珍しい案件でしたが「伝える技術」が応用できたのは、これまで多様な展示で培った経験が大きいと思っています。


(安藤)

それにしても初めて八王子の歴史館を訪れたときは、資料のサイズや多彩さに圧倒されました。昭和初期の住戸をはじめ、当時使われていた配管や扉、インターホンやトイレなど……。弊社では数々の企業ミュージアムを手掛けてきましたが、あれほどの物持ちの良さはなかなかお目にかかれません。「アテンドありきで、まち歩きをするように学べる施設を」というUR様のご要望を受け、当社は運営にも協力させていただいております。来館者への展示解説をするアテンダントのとりまとめ、アテンド用の台本制作などを弊社PPP事業部が担当しています。

専属のアテンダントが、多様な世代・多様な目的を持った来館者に柔軟に対応し展示への理解を深める。


株式会社トータルメディア開発研究所 中島 祥子(以下、中島)

展示だけでなく広報まで一貫してご一緒できる機会はトータルメディアとしてもそうありません。UR様の社会活動を楽しみながら深く知っていただけるよう、ベースとなる台本を組み立てたうえで、お客さまの個性に合わせながら案内しています。
たとえば今年のゴールデンウィーク期間の、予約なしで来館できる特別公開の際などは、多くのお子さまがいらっしゃったのでクイズを交えてご案内をしました。一方で、研修で来られた方や専門家向けには、UR様や志岐様にご協力いただき作成している「ネタ帳」をアテンダントと共有して応対するなど、基本的にはどんなお客さまにもきちんと受け答えができる態勢をとっています。

専属のアテンダントが来館者の世代や興味に合わせて展示を解説。


(野口 氏)

実際、お客さまからの評価はとても高い。過去に使われていた実物などをなんとなく眺めて回るだけでは、時代を超えたつながりやストーリーがなかなか見えてきません。ですが、アテンダントの丁寧な説明により、展示への理解が一気に高まる。とても大切な役割だと思います。

アテンダントは常に最新のUR情報をアップデートして来館者に対応。


日東設計事務所 志岐 祐一 様(以下、志岐 氏)

私は八王子の「集合住宅歴史館」の時代から復元住戸の設計などで、UR様とおつきあいが続いていますが、当時の歴史館では来館者に何かを聞かれれば手の空いた職員がその都度対応するのが精いっぱいでした。ですが、赤羽台に新設されたこちらのミュージアムでは、トータルメディアさんの管理のもとに、専属のアテンダントが情報を逐次アップデートしながらしっかりと応対している。来場者への情報伝達は格段にレベルアップしていると感じます。

4面の大型スクリーン映像で日本の集合住宅の歴史やURのまちづくりがダイナミックに体感できる「URシアター」。


(安藤)

展示の導入となるURシアターでは、日本の集合住宅の始まりから現在の集合住宅を超えたさまざまなまちづくりまで、UR様が取り組んできたまちづくり事業を壁3面と床1面の、計4面のスクリーンで体感できます。集合住宅の歴史や社会課題への取り組みを紹介した映像ですが、何しろUR様が造ってきた建物は巨大です。街の俯瞰(ふかん)から住戸の中まで約7分間でスムーズに紹介する方法はないかと考えた末、ドローン技術と6Kカメラを駆使した撮影にたどり着きました。
本展示は、施設の全体的な流れをつかむためのイントロダクションとしての役割を担っていますが、企業ミュージアムの『はじめに』は、飽きられがちなところもあります。そこで、アニメーションによる家族団らんの風景を挿入したり、静止画や動画などを細かくカットで切り替えたりと、4面をフルに使った映像表現で、思わず画面に魅了され引き込まれる工夫を施しています。

UR都市機構のまちづくりの変遷を没入感のある4面スクリーンで体感。(約7分)

同潤会や公団時代の先端技術や設計思想を忠実に再現することで過去の技術を継承する。


(志岐 氏)

同潤会代官山アパートメントは、1923(大正12)年の関東大震災後に住宅を復興するために発足した同潤会によって造られたものですが、耐震・耐火への期待から当時はまだ普及が限定的だった鉄筋コンクリート造を採用。加えて、水道やガス、電気など目新しいものがたくさん導入されました。

同潤会代官山アパートメントの復元住戸(単身住戸)


(志岐 氏)

このフロアでは同潤会代官山アパートメントの外壁に設置されていたモルタルのレリーフや共同食堂のカウンター、鉄筋コンクリートの柱、戦後の晴海高層アパートで採用されたエレベーターなども展示しています。これら実物を多用しているのも、これまでの技術開拓の痕跡をより深く知っていただくためです。やはりオリジナルの持つ説得力は大きいですから。

実物保存・同潤会清砂通りアパートメントの壁面レリーフ。

新たな生活様式や家族団らんの暮らし方など、「住まいの民主化」を集合住宅で提案してきたUR。


(志岐 氏)

公団の最初期の賃貸住宅・蓮根団地の復元住戸では、建築学者の西山夘三(うぞう)氏が提唱した『食寝分離』という考えをもとに生み出された「ダイニングキッチン(DK)」が再現されています。食事と就寝の場所を分け、台所と食事室を一体化したダイニングキッチンを日当たりの良い南側に置いて住戸の主役に据える発想は当時、相当に新鮮でした。

「ダイニングキッチン」のある復元住戸・蓮根団地


(渡辺 氏)

当時、DKは「住まいの民主化」の象徴と呼ばれました。戦前、日本家屋の台所は『裏方』で、日当たりの良い場所は亭主や来客のためのものでした。ですが、共同開発者の女性建築家「浜口ミホ」の想いもあり、公団は台所・兼食事室をダイニングキッチンと再定義。スポットライトの当たるところへ配置し、新たな家族団らんの暮らし方を提案しました。現代では当たり前のDKも、当時としてはかなり革新的な発想だったと思います。


(志岐 氏)

和室の床に座っての食事はほこりも舞って不衛生なので、「椅子に座りテーブルで食事をしましょう」という生活提案を広めるのに公団は大きな役割を果たしました。当時は安価なテーブルが簡単には手に入らなかったため、公団住宅では備え付けにしました。公団住宅を通して新たな生活習慣も戦後の日本に広まっていったのです。


(志岐 氏)

今ではどの家庭にもあるステンレスの流し台も、公団がメーカーと協力してプレス加工により大量生産できる製品を開発したことで普及しました。こちらは、公団最初の高層建築である晴海高層アパートの復元住戸で見ることができます。この建物は横に並んだ2住戸を3層分、計6住戸を巨大な柱と梁(はり)で囲んで構造の1単位とする「メガストラクチャー」を採用しているのも特徴で、これにより住戸内に柱や梁の露出を減らし、広がりを感じる空間を確保しています。

晴海高層アパートのメガストラクチャーの構造を再現した模型

文化財の移築と同じ発想で、持ち出せないものは質感・素材・色・雰囲気を再現。


(志岐 氏)

展示してある復元住戸や資料の特徴を挙げればまだまだありますが、このように公団は不足した住宅数を解消するだけでなく、同時に次代を担う技術を築こうとしました。その結実がこれらの住戸です。
復元住戸は文化財の移築と同じ発想で、可能な限り現存するオリジナルを移築し、持ち出せないものはできるだけ当時の質感に近い素材や色を使って再現しています。戸内の設備にもこだわり、昭和30年ごろのガスコンロを探してきたり、ふすま紙一つにも当時と同じ材料を使ったり同じ模様を複製して、時代の雰囲気を醸し出したり。床板は当初、大バラシといって大きな塊で移設する予定でしたが、そのままでは建物に入らないことがわかり、1枚1枚ばらして搬入し、組み直した住戸もあります。
ここまで徹底して文化財的な意識で移築・復元しているのは、人々の暮らしを底上げしようと尽力してきた同潤会や公団時代の先端技術や設計思想を、できるだけ忠実に伝えたかったからです。

復元住戸・多摩平団地テラスハウス。

 

より豊かな暮らしを探求してきた歴史を実物資料で表現「団地はじめてモノ語り」。


(渡辺 氏)

こちらはドアノブや洗面台、スイッチやコンセントなどがオブジェのように並び、見ているだけでも楽しい『団地はじめてモノ語り』というコーナーですが、実は同潤会から現在まで開発されてきたトピック性の高い展示資料が並んでいます。


(志岐 氏)

たとえば壁のひと区画には玄関の扉の鍵だけを集めています。主に戦前に使われていたレバータンブラー錠の横には、その後に開発されたシリンダー錠が飾られています。
レバータンブラー錠は、鍵の形が少なく当然、200〜300戸もある団地を造れば不足してしまいます。そこでより多くの鍵の形があるシリンダー錠がつくられ……という風にそれぞれに物語があります。

来館者は実物(モノ)を通して暮らしの記憶を呼び起こす。


(志岐 氏)

メーカーに資金援助をして、住宅に適した新しい部品などを生み出すのも公団の役割でした。公団住宅で使われたものは、のちに公営住宅や一般家庭にもどんどん広がっていく。UR発祥のそうした住宅部品の歴史を、ここで見ることができます。

UR発祥の住宅部品の数々に日本の住まいの物語が見えてくる。

団地の配置を示す3D模型を集めた「団地配置20選」。場所や年代による団地配置が一目瞭然!


(志岐 氏)

昭和30年ごろから最近までの団地の配置を示す3D模型をずらり並べた「団地配置20選」は人気の展示です。3D模型は、どれも1000分の1スケール。団地と聞くと各棟を単純に並列に並べたイメージを持つ人もいますが、実際は人の暮らしやすさや地形・風土を考慮し、場所や年代によって多様な配置が提案されています。この立体模型ならそれが一目瞭然です。団地の高層化や空間形成の手法も、非常に理解しやすい。

1/1000模型でたどる団地配置の変遷。


(渡辺 氏)

私たちのように実際に建築図面の線を引いてきた人間であれば、図面を見て実際の建物や街区の想像はつきます。ですがこの模型は、それらが一目瞭然。加えて、並べて比較できることで、あまり詳しくない人でも当時の設計者の考えや配置の工夫が伝わるようになっている。


(安藤)

思い返すと、この模型の納品は開館1週間前とかなりギリギリでしたね(笑)。

URの様々なコンテンツを満載し、タッチパネルで情報にアクセスできる「メディアウォール」


(安藤)

過去何十年分の募集案内パンフレットや賃貸住宅のみならず、既に事業を行っていない分譲住宅の紹介、事業書や地図、CMの動画までと多種多様な資料を見られるのがこちらの「メディアウォール」ですが、UR様の持つ膨大な資料をどう整理整頓すればいいのか、正直、かなりの大仕事でした。ある日、野口さんが大量のビジュアルデータが入ったハードディスクを持ってきて『一つ残らず見られるようにできませんか』と。ふたを開けてみればそのディスクの中身だけでは済まず、結局は倍近いデータ量になり、これがなかなか…(笑)。


(渡辺 氏)

打ち合わせの過程で「未来っぽさも欲しい」とか、私たちもどんどん注文を出してしまった(笑)。それでも、こちらの要望に応えて見事なものを制作してくださった。注文しておきながら、『本当につくっちゃったんだ。すごい』というのが率直な感想です。

来場者が自ら画面をタッチし、歴代のURのパンフレットや関連資料などを閲覧できる「メディアウォール」


(志岐 氏)

メディアウォールは、館内ツアーを回る前の待機場所に設置されていますが、老若男女、来館者の誰もがタッチするのに夢中で、なかなかその先の展示までたどり着かないという話を聞きます。
『うちのそばにもURの賃貸ってあったのか』『近所の再開発ってURがやってるんだ』とか『このパンフレット、ユニークだ』とか。チャンネルが多様な分、あらゆる世代のどこかしらに引っ掛かるポイントがあるんです。

URの歩みを振り返るとともに近年の事業も紹介する「UR都市機構のまちづくり」


(安藤)

先ほど渡辺様がおっしゃっていた通り、当施設の大きなテーマは、官や民を越えたUR事業の社会的役割を余すところなく伝えることです。その肝心かなめの一つがこの展示『UR都市機構のまちづくり』です。年表には拡張性のあるディスプレイを採用し、新しい歴史をアップデートできるようにしています。


(渡辺 氏)

2011年の東日本大震災は広範囲に甚大な被害をもたらしましたが、その復興支援にURが携わっていることを、この年表で初めて知ったという来館者の方もいます。2024年の元旦に起きた能登半島地震でも、URは国からの支援要請を受け、応急仮設住宅の建設支援や被災者へのUR賃貸住宅の提供などを行いました。今も私たちの同僚が被災地に出向して奔走していますが、そうした事業をきちんと伝えられる場ができて、とてもうれしく思います。

UR事業の社会的役割を伝える展示「UR都市機構のまちづくり」


(渡辺 氏)

今でこそ「UR都市機構のまちづくり」年表の上に映像を流していますが、開館直前までそこは白紙状態でして。開館前に展示確認に来たURの役員から、その違和感を指摘されました。言われてみれば確かに寂しい。焦っていると、トータルメディアさんがURシアター用に撮りためていた映像の素材をさっと提供してくださった。おかげで見事に収まりましたが、あの対応力にはうなりました。


(安藤)

実は展示が決まった当初から、あの壁は何かを投影するにはいい壁だなあ、と漠然と思っていまして(笑)。役員さまの『寂しい』のご指摘には感謝です。

納期が迫る中で続くプロジェクトの調整。急きょ、ドローンを飛ばしての撮影も敢行。


(安藤)

トータルメディアの立場として無視できないのがやはり納期。『いついつまでにこの英訳をチェックしてほしい』など毎日のようにUR様に投げかけ『明日までに返事をお願いします』と野口さんに無茶な催促をしたのは、一度や二度ではありません。UR内の事業部をまたいでの確認など煩雑な作業が多かったと思いますが、野口さんは、こちらの要求をすべて受け止めてくださった。企業のキャラクターは千差万別ですが、UR様はそうした要求への対応がとても前向きで、納期に追われた殺伐とした状況を和ませる懐の深さを感じました。

納期が迫る中での制作過程と苦労を振り返る。


(野口 氏)

仕事に対する各事業部門の思いはそれぞれです。その思いをどう展示に昇華するか、こちらで勝手に判断するわけにはいきませんから。
古い資料も多く、使えるものとそうでないものの選別も大変でしたよね。素材自体もなかなか集まらないことも多かった。URシアターでは東日本大震災の復興状況を伝える映像が必要でしたが、使える資料が弊社にないとわかると、トータルメディアさんが急遽宮城県女川市でドローンを飛ばして対応するなどしてくださった。おかげで、とても良い展示に仕上がりました。

「理想的な未来の住まい」はこれからもURの探求活動の先にあると感じています。


(中島)

私としてはまさに、貴館の運営を通して学びをいただいているさなかです。展示のみでなく運営まで直接関わる貴重な機会は今後、弊社としても大きな糧になるはず。こちらとしても成果に向けて力を尽くさなければと、身の引き締まる思いです。
当施設は、UR様が探求してきた「より豊かな暮らし」について過去、現在、未来を体験しながら一望できる施設ですが、未来に向けた取り組みとして、屋外空間「ワークショップひろば」を実験場に、新たな暮らしの風景をつくり出す「まちとくらしのトライアルプロジェクト」も始まりました。昨年度実施した「まちとくらしのトライアルコンペ」受賞案を、今年度はトライアル実践していきます。


(中島)

運営に携わっている立場から申し上げると、防災の観点や近隣とのコミュニティーの構築など「理想的な未来の住まい」の切り口はいろいろです。ただ、いずれにしても、これまで団地や都市再生、震災復興やニュータウンの整備などを手掛け、より良い暮らしのあり方を追求してきたUR様の活動の先に「理想的な未来の住まい」があると個人的には感じています。社会のセーフティーネットの役割を担い、多様性を受け入れてきたUR様の新たな事業活動に、弊社としては今後も連携して取り組んでいければと思います。

URの新たな取り組みのひとつ「まちとくらしのトライアルプロジェクト」記者発表

URの事業活動を学ぶ若手職員の研修の場として使いたいという要望が多くなっています。


(野口 氏)

これまでURでは、企業の全体像を俯瞰できる場がありませんでした。賃貸住宅事業や都市再生事業、復興支援事業など事業領域が幅広い分、それぞれが事業部に配属されると仕事にかかり切りになってしまい、当施設を訪れて改めて自社の多様な活動について知る職員もいます。
実際、各事業部などからも研修の場に使いたいという要望も多いですね。若手職員は先輩職員の社会課題への取り組みの歴史を知ってURの一員であることを誇りに思い、一方、先輩職員はこれまでを振り返りながら未来の住まいはどうあるべきかを考える。そんな施設になってくれたらと思います。

日本全国に所在するUR都市機構の事業部から職員研修の場として活用されている。

URの根底にある挑戦の歴史、実験的精神を受け継ぎ、未来の住宅やまちづくりの姿を探っていくミュージアムを目指したい。


(渡辺 氏)

展示されている復元住戸や実物の展示を見てもわかる通り、日本の住空間への挑戦や試行錯誤こそがURが歩んできた歴史です。DKもステンレス流し台も推し進めたというよりは、その時々の社会課題への対応として、必要に駆られて生まれた発想や技術です。団地というのは、言うなればその時代時代の最先端を投入している実験場のようなもの。未来の理想の住まいやくらし方について、決めつけず、予定調和にならないよう、トライアンドエラーを繰り返しながら模索していきたい。新しいものは、さらりとは生まれないと思いますから。URの根底にあるそうした実験的精神は当施設でもきちんと受け継いでいき、未来の住宅やまちづくりの姿を探っていければと思います。

2024年6月 「URまちとくらしのミュージアム」にて収録

 

URまちとくらしのミュージアムに関するプロジェクトレポート

展示施設設計/展示制作・工事/運営計画

都市の暮らしとまちづくりの過去・現在・未来を一望する施設

URまちとくらしのミュージアムは、集合住宅の歴史とまちづくりの変遷をテーマに“都市の暮らしの過去・現在・未来を体験し一望する施設”として、北区赤羽台に開館した。館内では、歴史的価値の高い集合住宅4団地計6戸の復元住戸をはじめ、映像・模型などで都市や集合住宅の変遷を紹介。1階には日本の集合住宅黎明期から現在に至るUR都市機構のまちづくりを没入感あふれる4面スクリーンで展開する「URシアター」を設置。URの近年の取り組みや関連史料を大型タッチモニターで直感的に検索できるメディアウォールも導入した…。続きを読む

その他のプロジェクトインタビュー



第8回:
名護博物館 様
『名護・やんばるのくらしと自然』の素晴らしさを後世に伝えるために



第7回:
福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館 様
福澤諭吉の生涯や今なお新しい思想とともに、慶應義塾の理念を発信する展示館を目指して



第6回:
JX金属 磯原工場ショールーム ISOHARA Showroom 様
先端素材の広がりやさらなる可能性を想起させる次世代型ショールームを目指して



第5回:
京急ミュージアム 様
京急グループ本社新社屋ビルに、お客様の歓声が響く“にぎわい施設”をつくる!




第4回:
石川県立図書館 様
“思いもよらない本との出会いを生み出す”新たな概念の図書館を目指して




第3回:
スペースLABO(北九州市科学館)様
多くの人たちにとってワクワクする『科学の入口』となる施設を目指して



第2回:
高砂熱学イノベーションセンター MIRAI MUSEUM AERA 様
「空調」に対する認知度向上と、高砂熱学工業のブランディングを目指して



第1回:
生きているミュージアム ニフレル 様
生きものたちが持つ多様な個性をテーマにした新しい施設を目指して

プロジェクトインタビュー

ページのトップへ戻る