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プロジェクトインタビュー

第6回プロジェクトインタビュー:
 JX金属 磯原工場ショールーム ISOHARA Showroom 様


先端素材の広がりやさらなる可能性を想起させる次世代型ショールームを目指して

JX金属 磯原工場ショールーム「ISOHARA Showroom」は、先端素材の需要拡大に伴い、磯原工場の先進性や環境面への配慮等のPRを目的に整備された施設です。当社はショールームの企画・設計・制作にわたり本整備事業のパートナーとして、プロジェクトをお手伝いさせて頂きました。先端素材の生産を通じて持続可能な社会の実現に貢献し続ける磯原工場の、今後の展開の広がりやさらなる可能性を想起させる次世代型ショールームがどのようなプロセスを経て整備されたのか。本稿では、JX金属様のご担当者と当社のプロジェクト担当者が、プロジェクトを振り返りながら、ショールームに込めた想いやさまざまなエピソードを語っています。

テキストJX金属株式会社 磯原工場 総合事務所棟
JX金属株式会社
磯原工場 総務部・総務課
福利厚生・庶務担当課長
久保 匡史 様

2017年、JX金属株式会社入社。2020年4月より磯原工場総務部総務課に配属。工場内の庶務福利厚生関係を担当。総合事務棟建設プロジェクト事務局長としてプロジェクト全体の進捗管理・設計・移転対応その他全体統括。

JX金属株式会社
磯原工場 設備技術部 設備技術課
技師
佐藤 勇太 様

2017年、JX金属株式会社入社。磯原工場設備技術部設備技術課にて工場内の土木・建築関係の案件に従事。総合事務棟建設プロジェクト副事務局長としてプロジェクト全体の計画・設計・建設を統括。

株式会社トータルメディア開発研究所
開発営業本部 東日本営業部
石井 智弥

美大在籍時から多くの空間作品や家具などを設計・制作。入社以来、2022年度までプロジェクト推進部において、建築分野の豊富な知見もいかしつつ、公共の文化観光施設から、企業ミュージアムやイノベーションセンターなど幅広いプロジェクトに携わる。JX金属磯原工場ショールームの整備では、一般的に馴染みの薄い“先端素材”という難しいテーマをわかりやすく伝える展示の実現に注力。JX金属様の高い技術力を広くPRする施設を目指しディレクションを行う。2023年度より営業部に異動し、現在は様々なプロジェクトのスタートアップをサポートしている。

総合事務棟 エントランス

「装置産業型企業」から「技術立脚型企業」への転身。磯原工場は薄膜材料事業のマザー工場として先端素材を製造。

テキスト

(JX金属株式会社 久保 匡史 様:以下、久保 氏)

銅を中心に先端素材を手がけている当社では、資源・製錬から先端素材の製造・販売、使用済み機器のリサイクルに至るまでの事業をグローバルに展開しています。 近年では、資源・製錬が中心だった「装置産業型企業」から、先端素材や循環型社会の実現に資する高付加価値製品・技術を提供する「技術立脚型企業」へと転身を進め、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)に不可欠な先端素材の製造開発、リサイクルに注力しています。 1985年から操業を始めた磯原工場(茨城県北茨城市)は、当社薄膜材料事業のマザー工場であり、半導体の配線材料になる多種のスパッタリングターゲットをはじめ、先端素材を製造・提供しています。

 

テキストショールーム整備のプロセスを、当時のエピソードとともに振り返る

国内外からのお客さまや工場見学者のために、本格的なショールームを計画。

(久保氏)
IoT・AI社会の進展や第5世代通信(5G)の本格化などによる先端素材需要の増加に伴い、市場規模が拡大し、当工場の重要性も高まっていきました。そのため近年、急激に従業員が増加して工場が手狭になり、総合事務棟を建て替える計画が2019年に立ち上がりました。それなら建て替えに合わせて、国内外からのお客さまや工場見学者のために、本格的なショールームを棟の最上階に備えてはどうかという話が持ち上りました。 すでに東京本社(東京都港区)に、当社の歴史やコア技術などを紹介するショールーム「SQUARE LAB(スクエア・ラボ)」があり、この施設を踏襲しつつ、磯原工場で製造する製品や製造工程を中心に展示したのが当工場のショールームです。

磯原工場ショールーム「ISOHARA Showroom」入口

製品の品質の高さや革新性、磯原工場が先端素材の工場であると訴求するのが大きなコンセプト。

テキスト

(久保氏)
ショールームは、つくり出す製品の品質の高さや革新性を踏まえ、磯原工場が先端素材の工場であると訴求するのが大きなコンセプトです。加えて、グループ全体の事業の概要・沿革をPRする役割も担っています。

JX金属株式会社 佐藤 勇太様(以下、佐藤氏)
IoT・AI化が進む社会において、当社の製品の存在は欠かせないものになっています。一方で、電化製品店に売られているようなものではないため、一般の方には馴染みがない。たとえばスマートフォンや電気自動車の内部にも当社の先端素材が使われていますが、それを伝えるのは大変に困難です。身近なのに身近でない、このジレンマを解消するのがショールーム開設の目的の一つでした。

 

テキスト先端素材が展示されたショールーム

 

テキスト白を基調としたシンプルなデザインで統一された空間

 

JX金属様の製品・技術、磯原工場の安定生産、それぞれの要素を分解してその素晴らしさを伝えることに注力。

テキスト

株式会社トータルメディア開発研究所 石井 智弥(以下、石井)

力を注いだのは、技術や設備に裏打ちされた磯原工場の安定性のすごさをひも解き、来場した方々にどうわかりやすく伝えていくかです。ただ情報をフラットに発信しても「よくわからないけどすごい」という漠然とした感想で終わってしまう。そこで、どんな資材を使い、どんな工程を経て製品化し、JX金属様が社会でどのような役割を担っているかなど、それぞれの要素を分解して展示してはどうかと提案しました。 この展示方法なら、全く知識のない学生でも、あるいは知識豊富な工場関係者やお取引先でも、気になるエリアにアクセスし、それぞれが何か成果を一つ持ち帰ることができる。そのためにどんな見せ方、どんな切り口が必要か、検討を重ねました。

 

テキスト曲線をいかした空間デザインを採用し、非日常感と先進性を訴求

 

(石井)
裏のテーマは非日常感。他の階よりも天井を高く設定し、壁のしつらえを変えるなどアプローチにもこだわり、エレベーターを降りた瞬間から別世界に入り込んだように感じさせる工夫を施しています。重厚な入り口の扉を開ければ、会議室などにありがちな四角い部屋ではなく、楕円形の空間が目前に広がります。各コーナーの袖壁には鏡面素材を使用し、先端素材の先進性と存在感を演出しました。

(久保氏)
更新のしやすさも大事なところですね。生産サイクルが比較的短い製品もあるので、定期的に内容を変えていける展示が望ましかった。トータルメディアさんには、これらの点を考慮しながらご提案いただきました。

5つのコーナーで構成されたショールームではJX金属の技術を多角的に紹介。

テキスト

(久保氏)
展示は、当社の概要や企業理念などを映像で表現する、大画面を用いた『Theater(シアター)』に始まり、磯原工場でつくる製品の実物を展示した『Product(プロダクト)』、製造工程を紹介する『Process(プロセス)』と続き、全部で5つ。 高純度の金属をつくる技術や、さまざまな製造工程を経て身近な商品になるまでを、イラストや図版、製品、映像などで多角的に紹介しています。

 

テキスト展示のひとつひとつに込められた様々な想いを振り返る

(久保氏)
コンテンツや照明は、室内にあるタブレットで一括して制御することが可能です。たとえばタブレット上の『Theater』のボタンを押せば照明が自動的に落ち、没入感のあるワイド画面に映像が映し出されます。アテンドの際にはとても便利です。

テキスト解説映像のオンオフや照明の切り替え等をコントロールできるタブレット

 

テキスト先端素材のさらなる可能性を感じさせる映像コーナー『Theater』

 

高度な製造技術を必要とするスパッタリングターゲットの展示コーナー『Product』。

テキスト

(久保氏)
『Product』の展示スペースでは、銅やチタンなど、磯原工場で実際につくられている各種スパッタリングターゲットを偏りなく展示しています。上部モニターでは、ターゲットの原子が基板表面に降り注いで膜が形成される様子を、図を用いて紹介しています。 ターゲット材がどのような役割を果たすのか、知識のない方でも理解できるような仕組みになっています。

 

テキストケース内に展示されたスパッタリングターゲット

 

テキスト上部のモニターでは基盤表面に膜が形成される様子などを紹介

 

多様な製品の製造工程を5つピックアップし、わかりやすく紹介した『Process』。

(久保氏)
『Process』は、当工場が扱っている多様な製品の製造工程を5つピップアップし、視覚的にパーミネーション(順列)して展示したものです。実写映像を交えて、現場に行かずとも俯瞰(ふかん)しておおまかな工程を紹介・説明できる仕様にしていただきました。

テキスト工場の生産プロセスをわかりやすく伝えるコーナー『Process』。

 

口頭説明では難しい工場の生産プロセスをアニメーションでわかりやすくまとめていただいた。

テキスト

(佐藤氏)
当工場では、一つの建物内で製品を完成させるのではなく、それぞれの建屋で加工しています。素材が建屋から建屋に受け渡されていき、製品になるまでの流れは口だけの説明では難しい。各棟を巡るのも多大な時間がかかる。ですが、ここでならアニメーションを眺めるだけで一連の作業工程を知ることができます。トータルメディアさんには、とてもわかりやすくまとめていただいたと思います。

 

(石井)
アニメーション映像でどこまで突き詰めてデフォルメするのか、工程の取捨選択に大変悩みました。誰にでも理解できるよう複雑さを省きながら、肝要の部分はきちんと表現しなくてはいけませんから。ひとめ見てわかるようなピクトのデザインにも気を配りました。工程の各担当者さまに何度も確認し、許可をいただき、現在の形におさまりました。

 

テキスト複雑な生産工程をピクト(図形)によるアニメーションでわかりやすく紹介

 

グループ全体の沿革、磯原工場の歴史、技術の発展を相関図的に示したコーナー『Profile』。

テキスト

(石井)
分析・評価技術を展示するモニターの横にある「Profile(プロフィール)」。JX金属様の歩みを年表でたどるコーナーです。入口付近に年表を設置する展示施設もありますが、ここでは来場者の間口を広くした分、いわゆる“お勉強感”を極力減らしたいと考え、後半のコーナーに設置しました。 年表では、最初に製品や工程を紹介し、次にそれを可能にしている技術立脚の歴史や磯原工場のルーツを説明する流れにしました。 『Profile』は、グループ全体の歩みと磯原工場の歴史、技術の発展を並列して参照できるため、年表でありながら相関図的な意味合いも含まれた構成となっています。

 

(久保氏)
年表の上には、当工場の創業時と近年の姿を写した航空写真を並べていますが、こちらもトータルメディアさんからご提案いただいたもの。古くから工場に勤める社員が、この写真の前で『そうそう、あの頃はこんなこともあった』と盛り上がることもしばしばです。

テキスト日本の産業の発展と共に歩むJX金属の歴史を年表で振り返る

 

技術開発への取り組みとともに、工場を支えている“働く方々”にスポットをあてて展示。

テキスト

(石井)
「Profile」の隣には、新技術や今後、製品展開する可能性がある試作品などが並ぶスペースがあります。その背景の壁紙には、工場で働く方々の写真がコラージュされています。未来社会に必要な先端素材をつくる磯原工場、その工場を支えているのは働く方々です。 その方々のエトセトラがみえると、より展示に深みが出ると考えました。そこで、働くお姿だけでなく工場のクラブ活動や地域への取り組みに勤しむ皆さんの表情が見えるこのコラージュを、展示物の背景に配したんです。

 

社会生活にいかにJX金属の先端素材が貢献しているかを伝えるコーナー『Application』

テキスト

(久保氏)
最後の展示「Application(アプリケーション)」。この展示では、イラストと映像を通じて当社や当工場と社会のつながりを表しています。我々の製品が『身近であり、身近でない』と言いましたが、これは磯原工場のみならず会社全体としても悩ましい課題です。 皆さんのいまの社会生活にとって、なくては不便が生じる可能性が高い一方で、これですよと提示するのが難しい。我々が製造・提供している先端素材が世のなかのどんな製品に使われているのか、知ってほしいという願いがこの展示に反映されています。

 

テキスト様々な分野に広がるJX金属の製品・技術を象徴的にイラストで表現

 

身近な製品のパーツをひもときながら、様々な製品を支えるJX金属の技術を紹介。

(石井)
いまや身近な存在となったスマートフォンがどんなパーツによって構成されているのか、ある程度はご存知の方もいると思います。ですが、そのパーツをつくるための素材までは、なかなか知り得ません。複雑な構造をかみ砕いてどう伝えるか、ここは最後まで腐心しました。 主力製品や技術年表といった展示が続き、あなたの身のまわりをJX金属様の存在が下支えしているのですと最後に知っていただく。さらに今後、そうした技術がどこに寄与してどんな世界を実現させていくのか、その可能性についても紹介しています。

 

テキスト様々な製品のパーツをひもときながら先端素材を紹介

 

JX金属様が扱う製品の知識や生産技術は極めて高度で膨大。どう伝えるかに骨を折りました。

テキスト

(石井)
磯原工場の技術力や設備力をきちんと理解するのは理系の方でも大変だと思いますが、しかも私は文系で……(笑)。まずは資料をじっくり読み込み、徹底的に勉強するところから始めました。工場の歴史は古く、JX金属様が扱う製品の知識や生産技術は極めて高度で膨大ですし、厳しい条件をクリアして安定生産するまでの苦労を知れば知るほど、どう伝えていくか骨を折りました。 一方で、まっさらな状態からのスタートだったからこそ知識のない方の立場に立ち、わかりやすい展示を実現することができました。過去にいろいろな展示を手がけた経験も生かしながら、フラットな見地から提案させていただけたと思います。

 

テキストインタビューはJX金属が拓く未来の話に及ぶ

 

工場の若手社員や工場見学に来る学生さんにも、当社のグローバルな貢献を知ってほしい。

テキスト

(久保氏)
事務棟ができた2022年当時は、対面の自粛を余儀なくされるコロナ禍の真っ最中。ようやく世のなかが落ち着きを取り戻しつつあるいま、当工場への来客は徐々に増えています。 それに伴い、ショールームの利用頻度も高まってきました。いまこそ、この存在をどんどん周知をしていきたい。 また、自らが携わる製品がいかにグローバルな世界で役に立っているのかを工場の若手社員に伝えたり、工場見学に来る学生さんたちにどんな製品を扱っているかを知ってもらったりするツールとしても、ショールームは大事な役割を担っていきます。

テキスト

(佐藤氏)
私は設備技術に従事する立場ですが、協力会社さんから当工場で何をしているのか、我々の仕事が何に役立っているかわからないと聞きます。それをわかりやすくひもといて展示してくれたトータルメディアさんには大変感謝しています。 ぜひ多くの方にショールームを見学いただき、当社の仕事がどう生かされているのかを知っていただきたいと考えています。

 

ショールームを通してJX金属、そして磯原工場の技術力をさらに広めていきたい。

(久保氏)
当社の製品は、電気を通す多種多様なものに使われています。持続可能な社会を意識しながらも、高品質の製品を安定供給・安定生産で提供していくのは、いまもこれからも大切な使命です。ショールームが開場し、約1年が経ちました。この場所を通して、JX金属の、そして磯原工場の技術力をより多くの方々に広めていきたいですね。

2023年7月4日 JX金属 磯原工場「ISOHARA Showroom」にて収録

 

JX金属 磯原工場ショールーム ISOHARA Showroomに関するプロジェクトレポート

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