プロジェクトインタビュー
第3回プロジェクトインタビュー:
スペースLABO(北九州市科学館)様
多くの人たちにとってワクワクする『科学の入口』となる施設を目指して
2022年4月、スペースワールド跡地に、スペースLABO(北九州市科学館)がオープンしました。子どもたちの科学的な思考を養うことを目指す本施設のスローガンは「フシギがれ!」。“不思議と思う気持ちは科学の入口”をテーマに、施設全体をフシギ創発装置として館内のいたるところにワクワクする工夫が施されています。
今回のプロジェクトはトータルメディア開発研究所と丹青社の共同企業体で設計、制作を行いました。本稿では、スペースLABO管理課長の遠藤様と当社プロジェクト担当者がプロジェクトを振り返りながら、スペースLABOに込めた想いやさまざまなエピソードを語っています。
- 北九州市 子ども家庭局 科学館(スペースLABO)
管理課長 遠藤 大介 様 - 1970(昭和45)年、北九州市小倉生まれ。
1994(平成6)年、北九州市役所に入職。主に産業振興分野の部署を経て、2019(令和元)年、新科学館整備の担当課長に着任。
2022(令和4)年4月の開館後も引き続き、現場で館の施設管理を担当。
- 株式会社トータルメディア開発研究所
西日本事業部 事業推進部 推進3課 チームリーダー
島村 昌志 - 2005年トータルメディア開発研究所入社。プロジェクト業務推進を担当。
こどもから大人まで居心地のよいサードプレイスとしてのミュージアムや展示空間を目指して、公共、企業のミュージアムやイノベーションセンターなど幅広いプロジェクトに携わる。
スペースLABO(北九州市科学館)では商業施設に隣接する新しい科学館像を目指して、展示開発はもちろん、コンセプト、VIや建築計画にわたる全体的なディレクションをおこなっている。
地元の人々にとって愛着のあるスペースワールド跡地に新たな科学館をつくる。
(北九州市子ども家庭局 科学館 管理課長 遠藤大介様:以下、遠藤氏)
スペースLABOの前身は、同じ八幡東区にあった北九州市立児童文化科学館という施設です。建物は古いもので50年以上が経過し、展示も古くなっていたのでリニューアルが課題となっていました。
建て替えにあたっては、八幡東区東田地区にはすでに「いのちのたび博物館」や「環境ミュージアム」などの博物館施設があり、元々この地区に博物館群を整備する構想もありましたので、地区内のいずれかの場所にとなりました。その矢先、地元でも愛されていたスペースワールドが閉園することとなり、広大な跡地の活用が地域の大きな課題となったのです。
跡地については、イオンモールさんが大規模なアウトレット施設を整備することになりましたが、その中で、丁度立地場所の選定を進めていた新科学館とのコラボレーションが俎上にのぼり、駅に近く、近隣の博物館との連携もとりやすく、集客面での相乗効果が見込めるとの判断の下、アウトレット敷地内への立地が決まりました。その直後に私が科学館整備の担当課長として着任し、本格的にプロジェクトが動き出しました。
理科って楽しい、科学って不思議を体験・体感できる施設に。
(遠藤氏)
新しい科学館をどんな施設にするのか、方向性を決めるにあたっては、地元の小中高大学等の教育機関や企業、市民など多くの方にご意見を伺いました。その際には、「北九州らしさ」という地域性・独自性と、一方でもう少し一般的・普遍的な、今の時代環境や想像しうる範囲の未来から求められるもの、の2つの観点を意識しました。まず、北九州らしい科学館とは?を考えた時、やはり歴史的にも「モノづくり」というキーワードは外せないなと思いました。但し、これは狭義に産業分類上の「製造業」のことを指すというよりは、自ら考え、自らの手で新たな価値をつくりだす、というイメージです。また昨今、子どもたちの理科離れが問題になっていますが、国や地域が今後も発展していくためには、それを支える科学人材の育成が必要なのではないかという思いもありました。
これらの点を合わせ考えると、まずは、科学の不思議について身をもって体験・体感し、理科を楽しむ、科学に興味を持ってもらうということを重視すべきだろうと感じました。
モノづくりの街・北九州の魅力も同時に発信。
(遠藤氏)
また、“地域性”という点では、北九州市は鉄鋼や化学といった基礎素材型の産業を中心に発展してきた歴史的な過程があります。従って、消費財ではなく生産財が中心であり、B to Bの企業が多いため、地元の産業が生活の中でどのように役立っているのかが見えにくいというジレンマがありました。地元の企業が社会にどのように貢献しているかを、もっと市民の方にも知って欲しいという企業側の思いも、「北九州らしさ」の中で伝える施設にしたいと思いました。
子どもたちはもちろん大人も驚く、大きさとリアル感を求めて。
(株式会社トータルメディア開発研究所 チームリーダー 島村昌志:以下、島村)
私たちは基本計画からプロジェクトメンバーとして携わらせていただくことになり、検討委員会にも参加しました。これまで弊社も科学館の実績は多数ありましたが、こういった大型のアウトレットモールにテナントとして入るという例は初めてでした。科学館目的のお客さまだけでなく、商業施設をめざしてくる方々が科学に触れる場所になるため、幅広い人たちへ科学の面白さをどう伝えるか、商業施設と教育施設をどう共存させるかという部分には頭を使いましたね。
(島村)
『今までにないものを作りたい』というオーダーがありましたので、自慢できる、語れる、びっくりするものは何だ?と。そんな中でも、当初から決まっていたのが『大きいもの』というキーワード。北九州出身で竜巻研究において世界的権威・藤田博士のコーナーでは“日本一大きな竜巻を再現する”、さらに“西日本最大級のドーム型プラネタリウムを作る”といった構想もすでにあり、子どもはもちろん、大人も驚くような大きいもの、大きい現象がないかを探る日々でした。
提案に対しては、来館者と同じ目線でジャッジするように心がけた。
(遠藤氏)
トータルメディアさんをはじめJVのプロジェクトチームの皆さんには、計画段階からさまざまなアイデアを繰り返し提案いただきました。一般的に、科学館の展示を検討する場合、館所属の学芸員の意見を反映することが多いかと思いますが、良くも悪くも前身の児童文化科学館には学芸員がいませんでした。ですので、提案に対しては、専門家として何を伝えたいか、という目線ではなく、来館者と同じ利用者目線でジャッジするように心がけました。私は文系なので、そんな私が理科に興味が持てるようなものがいいなと(笑)。もちろん学術的な正確性は、外部の専門家の方に監修していただくことで担保しました。ここが誰にとっても楽しい『科学の入口』になるようにしたかったんです。
「皆で誇れる施設を作ろう!」1つのプロジェクトが1つのチームになる時。
(島村)
このプロジェクトが始動する際に、メンバー全員に遠藤さんから一通の熱いメールが届いたんです。「人生の中で科学館の立ち上げに携われる人間は数少ない。自分たちが作ったと誇れるような施設を皆で作りましょう。」といった内容に、チームが一丸となれた感じがしました。メンバーは“1回の打ち合わせにつき1つの驚き”を目標にアイデア出しを行ったのですが、中身や表現は何でもいいんです。「今回は原寸大グラフィックを持ってきましたよ。」みたいな感じでも(笑)。
打ち合わせは毎回エキサイティング。いろいろな視点からアプローチを重ねた。
(島村)
お打ち合わせの中で遠藤さんが「ここは科学の入口だ」という言葉を発した時に、メンバー全員スーッと言葉が心に入ってきたんです。明確な目標が見えたという感じでしたね。お打ち合わせは毎回エキサイティングという言葉がふさわしくて(笑)。西日本最大級のドーム型のプラネタリウムを作るという計画を元に、そのドーム型の施設をどう活用していくか、商業施設に隣接する中で、どういった教育施設にしていくかなど、いろいろな観点からアプローチを重ねました。作ったから終わりではなくどう使っていくのか、あらかじめ余白を作っておかなければならないので。
(遠藤氏)
科学館を創っていく過程では難しい局面もありましたが、展示内容を考え抜いていくのは本当に楽しかったですね。これはお客さんが驚くだろうなとか、これだったら子どもも大人も楽しいだろうなとか。今回のプロジェクトメンバーの皆さんには、「お互い忖度はなしで、自分たちが本当に楽しいと思うものを作りましょう」とオーダーしました。私たちも一緒に考えたいと思ったんです。それだったらこういうアプローチもあるよね、と互いに刺激しあえる関係性ができていたと思います。
コンセプト「フシギがれ!」に込めた思い。体験を重視した説明過多にならない展示。
(遠藤氏)
当館の展示の特徴の一つに、使い方も含めて説明を最小限にしているということがあります。長々とした説明文はそれだけで読み疲れてしまいますし、読み終わると体験しなくても何となくやった感、分かった感が出てそこで終わってしまう気がするんです。すべてを説明してしまうより、実際に触れて、試行錯誤を繰り返しながら、どうしてこうなるんだろうと考えて欲しいんですね。科学における真理の探究ってそういうことだと思うんです。最初から答えが用意されているわけではない。当館のキャッチコピー「フシギがれ!」はこういったところからきています。もう少し深く知りたいと思った方にはQRコードを使ったAR・VR等で対応するにようにしていますし、まずは科学に興味さえ持ってもらえれば、あとはこの情報化社会で自ら探索していくんだろうと思っています。利用者の方から「分かりにくい」とお叱りをうけることもあるのですが、「色々と試しながら楽しんでみてください」とお伝えしています。
館内の全てが展示。一度では見つけられない発見と楽しさを創出。
(遠藤氏)
もう一つお願いしたのが、お客様が利用される館内全てのエリアに科学に関する演出をして欲しいということです。例えば、トイレや貸しロッカー、階段室、壁面など、展示室の中だけが展示ではないという考え方です。
(島村)
そうですね。トイレの壁面には宇宙や科学にまつわる豆知識が書いてあり、1階から3階まで男女別にテーマが違っています。階段だけにある情報などは、来館者が「見つけた!」という喜びと楽しさを意図しました。
サイエンスとアートの融合が科学館の可能性を大きく広げた。
(島村)
さまざまなアイデア出しを経て動的な展示アイデアが増えつつある時、遠藤課長から“立ち止まってジッと観察するような静的な展示もあっていいのでは?”とヒントをいただきました。科学館でアート作品の展示という領域が生まれ、私たちの提案の幅も広がりました。ただアートを展示するのではなく、例えば竜巻にちなんで風にまつわるアーティストの作品を導入するなど、テーマの連携にはこだわりました。
(遠藤氏)
サイエンスのアートって非常に美しいんです。作品によってはサイエンスとアートの境目があまりなくて、どうしてこう見えるんだろう?と『フシギがれ!』の範疇に入ってしまう。作品によっては使用する材料を地元企業が開発した特殊素材にするなど、アーティストと地元企業のコラボも生まれ、館のコンセプトである「地域性」も兼ね備えたものになりました。
地元の産業と技術力を身近に感じてもらえるよう展示にも一工夫。
(遠藤氏)
科学館の整備に際して、地元を中心とする15社に展示や内装等13の案件でご協力いただきました。1Fの展示室入口横にある「ウェルカムテック」は、安川電機さんの3機のアーム型ロボットが休みなく積み木を運んで、北九州市の街を作っています。門司港駅、小倉城、若戸大橋など、旧五市のエリアのランドマーク等を作っては崩しを繰り返すのですが、時間によって見られる建物が変わっていきます。ずっと見ていても飽きないし、安川さんの技術力の高さを知ることができる展示になっています。
コロナ禍を乗り越え無事オープン!約半年で来館者数30万人を突破!
(遠藤氏)
2019年に基本計画を策定してすぐに新型コロナが蔓延し、世の中が一変してしまいました。誰も経験したことがない状況でしたし、どうなるかという思いもありましたが、前向きにとらえるようにしました。体験・体感型の展示をじっくり楽しんで欲しいと思っていましたので、事前予約制にして入館者数をコントロールできるようにし、デジタル技術を活用して非接触型の展示も設けることにしました。
おかげさまで、オープンから約半年で30万人の来館者を達成することができました。これは想定より少し早いペースでの達成となり、皆さんの関心の高さを実感できて嬉しかったですね。
(島村)
フロアごとの来場者上限数などもしっかりと設定し、幾度となくシミュレーションを行い人の流れなどを考えました。コロナに対してネガティブになるのではなく、きちんと対策がとれる館づくりや体制を整えていったという感じですね。
これからも新しい科学の魅力を発信し続ける施設を目指して。
(遠藤氏)
完成した際には、皆さんがどのように反応されるのか不安と期待が入り混じっていましたが、良いものを作ったという達成感、手応えはありました。それはこれまでの来館者数にも現れていると思っています。今回、プロジェクトチームの皆さんには、地域や次の世代を担う子どもたちのために、恥ずかしくない良いものを作りたいという思いをしっかりと汲み取っていただきました。
教育要素がしっかり組み込まれ、なおかつ大人も子どもも楽しめる施設になったと思います。今後は、ソフト的に何度も足を運びたくなるような仕掛けづくりに力を入れていかなければと思っています。
(島村)
今回のプロジェクトでは、さまざまな提案を受け入れてくださり、私たちも自由な発想で楽しみながら取り組ませていただきました。自分自身、今まで関わってきたプロジェクトの中でもクライアントと『チーム』として一つになれたと実感できる印象深いプロジェクトになりました。これからも継続的にさまざまなお手伝いができればと思っています。
北九州市科学館 スペースLABOに関するプロジェクトレポート
「フシギがれ!」 フシギ創発装置としての科学館
児童文化科学館がスペースワールド跡地に移転し北九州市科学館スペースLABOとしてリニューアル。子どもたちの科学的な思考を養うことを目指す本施設のスローガンは「フシギがれ!」。“不思議と思う気持ちは科学の入口”をテーマに施設全体をフシギ創発装置と捉えて計画された…。…続きを読む
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