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プロジェクトインタビュー

第2回プロジェクトインタビュー:
 高砂熱学イノベーションセンター MIRAI MUSEUM AERA 様


「空調」に対する認知度向上と、高砂熱学工業のブランディングを目指して

MIRAI MUSEUM AERAは、茨城県つくばみらい市に建設された「高砂熱学イノベーションセンター」内に整備されたスペースです。MIRAI MUSEUM AERAは、「空調」に対する認知度向上と、高砂熱学工業の歴史・先進性の発信を通して企業ブランディングを図る拠点として計画されました。
当社はMIRAI MUSEUM AERAの企画・計画・設計・制作にわたり、本プロジェクトをお手伝いさせて頂きました。本稿では、高砂熱学工業様のご担当者と当社のプロジェクト担当者が、対談形式でプロジェクトへの想いやこだわり、計画当時のエピソードなどを語っています。

『MIRAI MUSEUM AERA』写真:大木大輔
小畑 洋氏
高砂熱学工業株式会社
研究開発本部 技術研究所 空調・環境研究開発室 
主席研究員
木村 健太郎 様
1999年、高砂熱学工業株式会社入社。現場管理業務を経て、2004年技術研究所へ異動。以降、主に研究開発業務に従事。2016年より新研究所の建設や実証に携わり現在に至る。
東京都市大学大学院博士課程修了、設備設計一級建築士。
小畑 洋氏
高砂熱学工業株式会社
研究開発本部 技術研究所 空調・環境研究開発室 
アドバイザー
清水 昭浩 様
1986年、高砂熱学工業株式会社入社。東京本店技術2部、技術研究所、東京本店設計1部等を経て、2015年より、新研究所の建設や実証に携わり現在に至る。
技術士(衛生工学部門)、設備設計一級建築士。
長尾 大輔
株式会社トータルメディア開発研究所
本社事業部 開発本部 事業開発部 開発1
チームリーダー
長尾 大輔
2006年トータルメディア開発研究所入社。
本社事業部で、コミュニケーション空間のプロデュース業務を担当。
企業ミュージアム等の事業構想から展示体験のディレクションまで、一貫した施設開発を目指している。
「MIRAI MUSEUM AERA」では、空間におけるコミュニケーションのあり方をデザイン。空調の価値を体感できるデジタルとフィジカルを融合させたUXを実現した。
宮澤 俊太郎
株式会社トータルメディア開発研究所
本社事業部 推進本部 事業推進部 推進2
プロデューサー
宮澤 俊太郎
2014年トータルメディア開発研究所入社。本社事業本部で、プロジェクト業務推進を担当。企業ミュージアム・ショールームでは、「凸版印刷NIPPON GALLERY旅道丸の内」「IHIそらのみらい館」「キッツグループイノベーションセンター」などを担当。モノやヒト、企業がもつ魅力的なストーリーを引き出し、展示を通して共感してもらうことで、豊かなコミュニケーションや新たなファンづくりにつなげることを目指している。

オープン以来たくさんの方々が来場。アトラクション的な要素もある展示は好評。

高砂熱学工業株式会社 清水昭浩様(以下、清水氏) 空気や空調について、年齢を問わず体感してもらうことを目的に本スペースを整備しました。コロナ禍で入場制限を設けてきましたが、社内外問わず、これまで多くの方々に来ていただきました。ここでは、最初に熱帯や砂漠、北極の空気環境を体験する『エア・チューブ』で驚き、最後は座る位置で温かさ、冷たさが異なる『空調ソファ』で会話が打ち解けます。
やはり会議室で対面して話すのとは雰囲気が違います。そんなお客様の反応を見て、とてもいい空間になったと思います。

目に見えない「空気」や「空調」を可視化したスペース
写真:大木大輔

高砂熱学工業株式会社 木村健太郎様(以下、木村氏)
アトラクション的な要素もある展示は、子どもたちにも好評です。運用を開始した2020年3月からは新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、一般の方の施設内の出入りが難しい状況が続きましたが、今年に入ってようやく地域のお子さまたちに来場していただけるようになりました。また来たいという言葉もたくさんいだだき、うれしい気持ちでいっぱいです。

先進的なイノベーションセンターにおける、空調環境の体験・体感型スペースを目指して計画。

(清水氏)
高砂熱学工業が2023年に創立100周年を迎えるのに合わせ、2015年に神奈川県厚木市の技術研究所を移転する計画が立ち上がり、2017年に茨城県つくばみらい市の約2万2千平方メートルの敷地を茨城県より購入し、技術研究所と本社機能の一部を統合した先進的なイノベーションセンターを設立することが決まりました。

『ゼロ・エネルギー・ビル』(ZEB)を目指したサステナブル建築。

本センターは使う電力を自前でまかなう『ゼロ・エネルギー・ビル』(ZEB)を目指したサスティナブル(持続可能)建築です。また、オープンイノベーションを促進する観点から他社や研究機関などにも解放されていますが、同時に地元の方々の交流の場としても活用していただきたいとの思いがありました。
さらに、道路を挟んで小学校が隣接していることから『児童に自由に入ってもらい、空気や空調について体験してもらってはどうか』との話が持ち上がったんです。そこでセンター内にミュージアムをつくろう、ということになりました。

木村健太郎様

(木村氏)
先の長い話ですが、施設を訪れた小学生が卒業後、空調工事を含めた建設の世界に1人でも多く入ってきてくれたらという願いもあります。
いま建設業界は入職者の数がどんどん減っています。このイノベーションセンターと『MIRAI MUSEUM AERA』が、弊社だけではなく業界自体を盛り上げていく拠点になればとの思いでいます。

どれだけ空調の『かっこよさ』を伝えられるか、空調設備を「主役」にする。

長尾大輔

株式会社トータルメディア開発研究所 長尾大輔(以下、長尾)
研究開発拠点内での企業展示の場合、B to B(企業間取引)を対象に、自社の信頼感や技術力を可視化する目的がとても多いんです。ですから最初にプロポーザルの条件を聞いた段階では、てっきりそうしたプロジェクトなのかと思いました。 ですが対話を進めるうちに、開かれた空間での一般を含めた方々とのコミュニケーションが目的だとわかってきました。すると、どれだけ空調の『かっこよさ』を伝えられるかが大事になってきます。

先ほど、自社だけでなく業界そのものに興味を持ってほしいとの言葉が木村様からありましたが、そのためには堅苦しくて難しいところを『かっこいい』や『すごい』に昇華させる必要がある。
そこで着目したのが、ミュージアムの奥に配置される「空調機械室」です。このイノベーションセンターの建物を実際に空調している設備。いつもは裏にあって見えないこの空調設備を「主役」にする。空調が建物を生かし、動かしていることを訴求する。この点をふまえて企画を進めていくことにしました。
ところが、空調は建築や内装などに比べて可視化するのが難しい。これには悩みました。

空調を可視化することの難しさ。当時のエピソードを振り返る。

(清水氏)
空調はわかりにくい、というのはおっしゃる通り。さらに弊社は空調機メーカーではなく、空調機などをシステマイズして快適な環境をつくる会社です。一目瞭然とはいかず、イメージもつかみにくい。『MIRAI MUSEUM AERA』の企画は難しかったでしょうね。

“空調をコントロールする世界”に入り込んでいくような感覚をつくる。

(長尾)
いくらわかりやすくと言っても、『空調とは……』と文章を書いたパネルを貼っても、なかなか来場者には響きません。そこで、展示室のはじめにさまざまな国の気候を体験できるガラスのチューブ(エア・チューブ)を用意して、気温や湿度の変化でどれだけ人の気持ちが変わるのかを体験してもらおうと考えました。

さまざまな国の気候を体験できる「エア・チューブ」 
写真:大木大輔

この「エア・チューブ」を最初のコーナーに設置することで、空調の重要性を理屈ではなく身体で感じてもらう。いわば、空調の世界へ誘うためのスイッチとなる体験を提示しました。この「エア・チューブ」をイントロダクションとすることで、次に続く空気の流れを可視化したゲート「エア・ゲート」をくぐることへの期待感が醸成されます。身体で空気を感じるUX(ユーザーエクスペリエンス)を設計することで、“空調をコントロールする世界”に入り込んでいくような感覚をつくり出したんです。

空気の流れを可視化したゲート「エア・ゲート」
写真:大木大輔

ゲートの向こうの部屋には、空調の歴史を紹介する映像コーナー、実際の空調機械室を目視できる3Dホログラムを併用したコーナー、宇宙や海底を切り拓く空調の未来の姿を紹介する映像コーナーが展開します。
歴史は『過去』、まさにいま稼働する空調機械室は『現在』、将来の空気はもちろん『未来』を表し、来場者は時間軸に沿って空調の物語を体験していきます。
高砂熱学工業様は、いわば建築空間に血液を送り出すような存在。建物という骨に血や栄養をめぐらせる役割です。メーカーとは異なる価値を生み出す哲学を、展示の端々に振っていくつもりで組み立てていきました。

スクリーンに風を送り込むことで、空調と生活のかかわりの歴史が表出スクリーンに風を送り込むことで、空調と生活のかかわりの歴史が表出
写真:大木大輔

空調機械室の3Dホログラム映像を操作しながら構造を探究できる展示 空調機械室の3Dホログラム映像を操作しながら構造を探究できる展示
写真:大木大輔

展示体験にも「空気を送り込む」ことにこだわった演出を検討しました。

長尾 宮澤

(長尾)
構想を練っていた当時は、センサーを使って映像を動かす仕組みなどが流行していましたが、歴史を振り返るにしても、ただ手をかざすだけではつまらない。そこで『歴史』のコーナーでは、空調の歴史に価値を吹き込むという意味を背景に、プロペラに風を送り込むと映像が表示される仕掛けを採用しました。
『未来』のコーナーも、ボタンを押すと映像が出る仕組みでは体験として記憶に残りにくいので、映像に風を送り込み世界を覆う雲を吹き払うことで、その場所から情報が得られる演出を取り入れています。

映像スクリーンに風を送ると、雲が吹き払われ空調技術の未来が表出映像スクリーンに風を送ると、雲が吹き払われ空調技術の未来が表出
写真:大木大輔

視覚だけでなく、五感で良し悪しを判断して展示を制作していくのは、大変なご苦労があったと思います。

(木村氏)
映像や情報システムを多用して更新性を高めた点も素晴らしいですが、何よりもこのような仕掛けの発想は、当社だけではまず出てこない。それに何度も試作を重ねていただき、その手間にも驚かされました。

(清水氏) 通常の展示なら絵を描けばわかるというか、3次元の模型をつくれば大体理解できます。ですが『MIRAI MUSEUM AERA』は、それだけでは本来の楽しさ、面白さが伝わらない。視覚だけでなく五感で『いい、悪い』を判断して制作を進めていくのは、大変なご苦労があったと思います。

「これからの空調はパーソナル」というキーワードに着目した展示の導入。

(長尾)
難しかったのが、歴史、現在、未来に囲まれた部屋の中央の展示です。どうしようかと議論を重ねるうちに『これからの空調はパーソナル』というキーワードが出てきました。「なるほど!では最後に温かい、冷たい、を個人の感覚で体験してもらえばいいじゃないか」と、温感の異なる2種類の「空調ソファ」を置く方向にまとまりました。ですが実物をつくるのは困難で、御社の技術研究所にお邪魔して、温度の異なる空気を木箱に送り込む実験を何度も繰り返しました。

(木村氏)
そうでしたね、懐かしい。座り心地についても他人の意見に左右されないよう、皆で目をつぶって座り、素材などを吟味して進めていきましたね。導入部の『エア・チューブ』も同じように苦労した覚えがあります。ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)を目指す以上、展示エリアの設備も省エネが求められます。冷却側は地下水、加熱側は排温水を利用するなど、極力消費エネルギーを抑えて構築するのは至難の業でしたね。

試行錯誤を繰り返してようやく実現した2種類の「空調ソファ」試行錯誤を繰り返してようやく実現した2種類の「空調ソファ」

高砂熱学工業様の技術的なご協力と当社のアイデアの共創で実現した展示。

株式会社トータルメディア開発研究所 宮澤俊太郎
私は設計・制作段階からプロジェクトに参加しました。記憶に残っているのは、霧が噴き出る『エア・ゲート』の設置です。いざ据え付けたら霧が出ない。 フィンランドから輸入した機材で、電源が問題では……などと皆で首をひねったのを覚えています。結局トラブルの原因は、浄水器を通した水がきれい過ぎたことでした。空調設備のプロである高砂熱学工業様にもご協力をいただきながら、様々な検証をして、ある程度の不純物が含まれなければ霧が発生しないと判明して事なきを得ました。新しい挑戦は、やってみないとわからないことも多いです。 今回のように、お客様の技術的なご協力と当社のアイデアを組み合わせて新しい展示を生み出すケースはなかなかありません。トータルメディアとしても、とても良い機会をいただけたと感じています。

施主の立場として一貫してプロジェクトに関われたのは、非常に良い経験。

(清水氏)
私は今回施主の立場として一貫して関われたのは、非常に良い経験でした。研究所の移転計画が立ち上がり、社内の意見を吸い上げ、トータルメディアさんや設計事務所、ゼネコンなど各方面の協力を経て、新たな価値を発信するイノベーションセンターが完成しました。 私もあと10年若ければ、今回の経験を次のステップに生かせたのではという複雑な思いも少しあります(笑)。

歴史コーナーを振り返りながら、高砂熱学工業の歩んできた足跡を語る

さまざまな業種の知見が集結し、結実したのが今回の仕事だったと改めて実感。

(長尾)
今回のプロジェクトの受注者側の代表として私たちがいまこの場に座っていますが、映像や装置の一つひとつに至るまで、さまざまなクリエイターが知恵を出し合いつくり上げたものです。
改めて思い出すのは、センターの竣工式が催されたとき、定礎石に私たちトータルメディアの名刺も入れていいと高砂熱学工業の皆さまがおっしゃってくださったこと。これは本当に嬉しかったですね。
会社の垣根を越えてさまざまな業種の名刺が重なる様子に、まさに多くの知見が集結し、結実したのが今回の仕事だったと改めて感じました。

映像や装置の一つひとつに至るまで、さまざまな開発のドラマがある。映像や装置の一つひとつに至るまで、さまざまな開発のドラマがある。

現在や未来の生活にとって大切な空調技術を、より多くの人々に知ってほしい。

(木村氏)
空調はなくても人は生きていけます。ですが、それでは大昔に逆戻りです。消費エネルギー以上の価値を創造していくためには、空調はかかせないものです。 現在や未来の生活にとって大切な空調の技術をより多くの人々に知ってもらい、業界に興味を持つ子どもたちが少しでも増えるよう、今後も開かれた場所として機能させていきたいですね。

脈々と受け継がれるDNA。『MIRAI MUSEUM AERA』の役割は始まったばかり。

(清水氏)
イノベーションセンターそのものが実に先進的で、初代社長・柳町政之助の『無いものがあれば自分たちで創る』の精神をそのまま形にしたような建物です。もちろん『MIRAI MUSEUM AERA』にも、そのDNAは受け継がれています。コロナの脅威が収まれば近隣の小学校だけでなく、社会見学の一貫として全国からも訪れてほしい。『MIRAI MUSEUM AERA』の役割は始まったばかりです。

2022年8月29日 高砂熱学イノベーションセンター MIRAI MUSEUM AERAにて収録2022年8月29日 高砂熱学イノベーションセンター MIRAI MUSEUM AERAにて収録

高砂熱学イノベーションセンター MIRAI MUSEUM AERAに関するプロジェクトレポート

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